【失敗しないSalesforce導入】#4 − サクセスまでを設計する
株式会社こころみでは、傾聴型業務可視化ソリューション ”ディープリスニングコンサルティング” を通じて、さまざまな企業の業務変革を支援しています。先日開催したセミナーでは、「失敗しないSalesforce導入をいかに実現するか〜導入から成果創出まで押さえるべきポイント〜」と題して、営業DXの中心となる Salesforceの導入をテーマに講演を行いました。
本ブログではこの講演内容からトピックをピックアップして解説していきます。
〜 ・ 〜 ・ 〜
第4回は「サクセスまでを設計する」です。
前々回、「テクノロジー、プロセス」だけでなく、「人・組織」も考える必要があるという話をしました。そして、前回は、なぜ「人・組織」までを考えることが重要なのかを、「論理と感情」という側面から考えました。
これまでは、「どの観点を考える必要があるか」を考えましたが、今回は「どこまでの工程を考える必要があるか」という話です。
導入がゴールではない
おそらく、どなたでも理屈で考えれば「システムを入れて終わりではなく、成果を出すまでが大事」ということはわかることです。
でも、実態としては、システムを入れっぱなしでその後意味があったのかまでは誰も見ていない、ということは起こりがちです。
その背景・原因としてよく聞くのはこのようなシーンです。
- システム部にとっては、導入までがプロジェクトであり、その後は運用・メンテナンスのフェーズとなり、主要リソースは、別のプロジェクトへ移行する。
- ユーザー部門にとっては、新しいシステムを使い始めるだけでも労力を取られるし、定常業務は今までどおりで忙しいし、支障なく新しいシステムが使えればよし、となる。
- そもそも、システム部もユーザー部門も、そのシステムを使ってどのように成果を出すのかのイメージもノウハウも持ち合わせていないから、双方が、「導入するまで、使えるようになるまで」で止まる。
「Salesforce導入プロジェクト」などの「導入」というプロジェクト名を冠してしまうと、どうしても「導入」までがゴールになりがちです。「導入」までを一区切りとしてプロジェクトとすること自体は全然問題ありません。ただ、導入後に、成果を出すまでの変革プロジェクトを責任もって進めることをしないのが非常にもったいないところです。
サクセス(成果創出)をゴールにする
強くお勧めしたいのは、変革全体の設計・計画の段階から、成果が生まれるまでをゴールとするということです。
こうすると、「導入」はあくまで中間のマイルストーンとなります。
すると、導入後に何をすべきかを設計することになります。
- オンボーディング ー 新しいシステムへ慣れるまで生産性が落ちることを最小限にするため、新たに使い始めるユーザーがすぐに使えるように、研修、マニュアル、ヘルプコンテンツ、デジタルアダプションツール、等を準備する。
- 活用促進 ー システムの必要な機能を使いこなせるようになり、あわせて営業プロセスも改善し、成果を出すためのPDCAを回し始める
- 成果創出 ー システムとプロセスのPDCAが回った結果、生産性や売上等の成果が出る
つまり、何を成果とするのかはあらかじめ設定しておく必要があります。Salesforce導入の目的が、営業の生産性や売上の向上であれば、それを達成するまでを設計・計画しておくべきですし、その計画を実行するためのリソースやプロジェクトが必要です。
ツールを導入して使えるようになれば、即成果というケースもある
ツールを導入して使えるようになれば、ほぼ成果=ゴールという性質のものもあります。
たとえば、人事・労務の業務効率化を実現する SmartHR を例に考えると、導入して使えるようになれば、人事も従業員もどちらも格段に効率化が進みます。つまり、導入そして活用まででほぼゴールと言っても良いでしょう。
たとえば、各種クラウドサービスへのシングルサインオンなどセキュリティ機能を提供する HENNGE One の場合、これもやはり、導入して使えるようになった段階で、必要なセキュリティ機能を実限できるので、ほぼゴールと言えるでしょう。
別の例で、名刺管理の Sansan で考えてみましょう。Sansan を導入して使えるようになった段階で、これまで紙の名刺で管理していたものがデジタル化されていつでも検索できるようになります。それだけでも効率化できたという一定の成果と言えますが、Sansan が本来もたらせる価値の半分にも満たないかもしれません。Sansan の価値は、顧客となる企業との接点の可視化であり、企業データベースとつなげ、会うべき企業・会うべき人と会うための施策を生み出せることです。となると、「導入して使えるようになった」だけは、目指すべき成果にはまだまだ足りません。
Salesforceも同様です。例えば、これまで取引先企業・見込み顧客企業や商談をExcelで管理していたとして、それを Salesforce に切り替えたとします。それだけで、Excel でやるよりは管理は効率的にできるようになるので一定の成果ではありますが、それだけでは、営業力が高まるわけではありませんので、収益への貢献は難しいですし、Salesforce という高価なツールに見合うだけの価値が得られたとは言い難いです。
つまり、ツール(システム)によって、導入して使えるようになればほぼゴールと言えるものもあれば、導入して使えるだけでは全然足りず、成果を出すまでをきちんと設計してリソースをかける必要のあるものもあると言うことです。
では、Salesforce を導入して、成果を出すには?
Salesforce を導入したけれど、使いこなせていない、成果が出ていないという事例の多くは、成果を出すまでの設計・計画がない、さらにその中身を言えば、Salesforce というテクノロジー(ツール)を導入しただけで、営業のプロセスを変えていないことによります。
営業の生産性や売上を上げるためのプロセスの改善こそが、成果につながる鍵であり、テクノロジーはこのプロセスを効率的・効果的に回すための道具です。
営業活動の質を高めるフィードバック
例えば、どんな会社を訪問し、どんな話をしたのかというような営業活動の記録を付けたとしても、その記録を使って、どのようにして売上を向上させる策を生み出すのかがなければ、何も変わりません。
Salesforceに入力された記録は、例えば、マネージャーや営業を指導できる人がチェックし、営業担当がどのように活動すればよりよくなるのかをフィードバックするために使えます。
行くべき見込み顧客をどう選ぶのか、何をヒアリングするのか、それに対して適切な提案を行っているか、見込み顧客が社内への上申や決済に向けた次の行動を起こしているか、などの進捗をチェックし、とるべきアクションを営業担当がとれるように導くのです。
営業担当は、顧客のこの商談の背景や現在の動きを把握し、商談の進度に応じた適切なアクションを取っていくべきですが、経験や知識が足りないと、適切なアクションがわかりません。ただ足繁く通い、「検討してください」と言うだけでは商談を前に進めることは難しいでしょう。そのため、マネージャーや営業を指導できる人が、Salesforceに記載された履歴を見ながら、的確なサポートを行い、指導していくことが、営業力を高めるためには必要です。いわゆる セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)という活動です。
そうすることで、優秀な営業担当のベストプラクティスを組織に浸透させることができます。そのサイクルが回ることでチーム全体の営業活動の質が底上げされます。
システムに営業活動を記録することはゴールではありません。記録された内容を分析し、適切な活動ができるようフィードバックしていくことが営業力を高めるための一つの策です。
全商談からの売上予測とボトルネックの把握
また、チーム全体として受注見込みの高い商談が何件あり、その総額はいくらかを可視化することで、今期の売上予測ができます。Salesforceは、蓄積されたデータ(この場合、主に商談のデータ)から、レポート・ダッシュボードの機能を使って、容易にグラフ化・可視化できるのが強みです。売上目標と売上予測との乖離を把握し、目標に届かないようであれば、打ち手を考える必要があります。
打ち手を考える上でも、Salesforce のレポート・ダッシュボードの機能を使ったグラフ化・可視化が重要になります。
受注見込みの高い商談が足りないのであれば、受注見込みがまだ低い商談はどれくらいあるのか、その手前のアポイントが取れた案件はどれだけあるのか、その手前の見込み顧客は足りているのか、どこが今ボトルネックになっているのか、どこに注力すべきかを把握します。
そして、インサイドセールスから有望な見込み顧客へのアプローチにより時間を使うのか、一度失注した商談から一定期間経ったものに再アプローチするのか、等々の具体的なアクションにつなげることができます。
このような営業プロセスの管理方法は、営業組織全体の営業力を高めることが目的です。一部のトップ営業に依存する組織ではなく、ほとんどの営業社員が一定以上の成績を出せるような、営業成績の中間層が厚い組織にすることが目的となります。
Salesforceを導入すれば営業のベストプラクティスもついてくる?
上で述べたような営業力を高めるための営業プロセス、つまり、営業のベストプラクティスは Salesforceを導入したら自動的に実現できるのでしょうか。そんなことはありません。意図して作り込む必要があります。
ただ、Salesforceはこのような営業のベストプラクティスを実現しやすい作りになっているのも事実です。なぜなら、営業のベストプラクティスとして広く知られるようになった「THE MODEL」と呼ばれる管理手法は、もともとSalesforce社が自社の営業活動として改善を重ね、作り上げたものだからです
営業プロセスのベストプラクティスを学ぶために
おすすめの書籍があります。
Salesforce、Marketo というアメリカを代表する B2B SaaS 企業で培われた営業プロセスのベストプラクティス「THE MODEL」を理解するには、この書籍がおすすめです。主に、マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスとプロセスと役割を分けて管理するプロセス管理について知ることができます。
もう一つのおすすめは、成果を出す営業のスタイルについて知ることができる「チャレンジャー・セールス・モデル」という書籍です。こちらもまた、Salesforce社が実践する営業のスタイルとしても知られています。
社内のITプロジェクトでもサクセスを目指す
昨今、SaaS業界を中心に、カスタマーサクセスという活動が盛んです。これもまた Salesforce社が先駆者であるのですが、自社のSaaSプロダクトの価値を顧客企業に最大限感じてもらい、契約を継続してもらうことで自社の収益に貢献する活動です。具体的には、上で述べた「オンボーディング」「活用促進」「成果創出」を支援するためのコンテンツやサポートを提供するものです。
SaaS 業界ではカスタマーサクセスは、収益に直結する非常に重要な活動です。SaaS のサブスクリプションモデルでは、新規顧客獲得以上に、既存顧客の契約継続が収益に与える影響が大きくなるからです。
しかしながら、社内ITプロジェクトにおいて、システム部やユーザー部門にとっては、サクセス(社内の場合、カスタマーではないのでサクセスとします)つまり成果創出までの活動に重きをおかれることが多くありません。
ですが、社内ITプロジェクトにおいても、その成果は自社の生産性や収益につながるものであるので、成果創出まで導くことが重要であることは、疑う余地はないですね。
まとめ
今回、「サクセスまでを設計する」ことについて考えました。
- テクノロジー(システム)の導入がゴールではない。サクセス、つまり、成果を出すまでをゴールとして設計・計画することが大事
- 導入はしたが、使えていない、成果が出ていないという事例は、主に、成果を出すまでの設計・計画がないことが多い。
- Salesforce を中心とした営業変革の場合では、成果を出すためには、テクノロジー(システム)の導入だけでなく、プロセスの変革が非常に重要。
- 営業プロセスのベストプラクティスを知ることが重要であり、書籍で学べることも多い。
しかし、社内の組織体制が、例えば、システム部はシステムを作る・運用する役割、営業部は契約を獲得する役割だとしたら、「営業活動のためのテクノロジーとプロセスを新しくし営業生産性を高める」のはどこの部の役割にもぴったり当てはまりません。だから、推進できてない、というのが実情ではないでしょうか。
そうなると、結局、前々回の記事で考察したとおり、「テクノロジー、プロセス」だけでなく、「人・組織」も考える必要がある、という話が重要になります。サクセスまで導く、つまり、成果創出を実限する責任は誰にあるのか、どの部・チームにあるのか、の答えがない組織であれば、その組織体制づくりもスコープに入れなくてはなりません。
〜 ・ 〜 ・ 〜
弊社株式会社こころみが提供するディープリスニング・コンサルティングは、現状の業務と課題の可視化からスタートし、あるべき姿を描き、テクノロジー、プロセス、人・組織の変革の実行を支援しています。
DXや業務変革を進めるにあたり、どこから手をつけていいかわからない、うまく進められない、といった課題がもしあれば、ぜひご相談ください。まずは現状の懸念からお聞きしますので、こちらからご連絡ください。
「聞くプロ」と話してみる
CONTACT
TELL: 0120-042-488(平日 9:00-18:00)