【失敗しないSalesforce導入】#2 − DXを考える時に考慮すべき3つの要素

株式会社こころみでは、傾聴型業務可視化ソリューション ”ディープリスニングコンサルティング” を通じて、さまざまな企業の業務変革を支援しています。先日開催したセミナーでは、「失敗しないSalesforce導入をいかに実現するか〜導入から成果創出まで押さえるべきポイント〜」と題して、営業DXの中心となる Salesforceの導入をテーマに講演を行いました。
本ブログではこの講演内容からトピックをピックアップして解説していきます。
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第2回は、「DXを考える時に考慮すべき3つの要素」です。
前回の記事でも、「3つの要素を描く必要があります」として説明した、テクノロジー、プロセス、人・組織の3つです。
今週の日経クロステックの記事「DXをIT部門や変革推進者に丸投げ、そんな経営者は退場すべきだ」の中でも「DXや変革に取り組もうとすると、必ず人の問題に直面する」とあるように、およそどの企業でも状況を聞くと、人の問題が出てきます。
よくあるのはこんな例です。
「営業が、煩雑な手続きや書類に追われて、顧客への価値提供に費やす時間が取れない。人手不足も悩ましい問題で、このままでは成り立たなくなる。DXを進めないといけないとは思っていて、Salesforceとか入れて、営業現場の効率化や可視化を進めるのがいいんだろうなとは思ってるんですよね。」
「それで営業にも聞いてみたら、顧客の規模や種類によって、提案の内容も商談のプロセスも手続きも違うから、効率化なんてできないでしょって言われるんです。」
「で、いろんな部署から人集めて意見出したりもしたんですけどね、みんな状況違いすぎて、意見バラバラで発散しちゃうし、誰か一人『こんなの無理でしょ』ってネガティブなこと言うと、もう無理みたいな雰囲気になって終わっちゃう。そもそも営業は個人事業のように自分の成績で稼いでるから、顧客の情報とか提案書のノウハウとか他の人に共有したがらないから、Salesforce入れても、大事な情報は入れてくれなさそうなんですよね。」
つまり、
テクノロジー(上記の例ではSaleforce)を導入しようと思ってる
→ でも、プロセスが煩雑・非効率なので、テクノロジーだけ入れても解決しない
→ そもそも、人・組織の問題がボトルネックで、テクノロジーだけでは解決しない
という状況です。
DXを考える時に必要な3つの要素 ― テクノロジー、プロセス、人・組織
さて前回もふれた変革の作り方、①現状の業務・課題を把握、②目指す姿を描く、③変革を設計・計画する、それぞれに対して、3つの要素「テクノロジー」「プロセス」「人・組織」を考慮します。
つまり、こういうことです。

①現状の業務・課題を把握
テクノロジー、プロセス、人・組織の要素について、現状の業務・課題を把握する例を説明します。
現状を把握しようとすると、たいてい最初にするのは、長くいる人・比較的詳しい人に聞いてみることです。すると聞かれるのはこのような感じです。(500人以上の規模の企業をイメージしています)
- テクノロジー
- 各部のさまざまなツールがどうつながっているのか全体像がわからない
- ツールを導入した人がもういないので詳細がわからない
- 各部で管理している顧客リストが別々で、変更が他部署に伝わらない
- プロセス
- 各部でサイロ化、担当者で属人化して全体がわかる人がいない
- 営業担当は見積内容を複数のツールに登録、変更もそれぞれに必要
- 請求書フォーマットが取引先ごとに異なるため全て手作業で作成
- 人・組織
- 営業担当顧客の違いにより営業成績の差が激しく、不公平感が強い
- 営業ノウハウが共有されず、精神論の指導のため新人が育たない
- 営業資料が共有されず、個人ごとに作成するため効率が悪い

つまりは、テクノロジーやプロセスについては「全体や詳細まではわからない」となり、人・組織については、その人の耳に入ってきてることまではわかる、となりやすいです。この解像度のままでは、「いろいろ難しい状況だな」ということはわかっても、設計・計画に落とし込めません。
「現状の業務・課題を把握」は実はなかなか難しい
そう、「現状の業務・課題の把握」は実はなかなか難しいのです。
小規模のスタートアップ企業だと難しくはないでしょうが、10年以上業務をやっている企業や500人以上の従業員規模等、事業年数・規模が長く大きくなるほど複雑になりやすく、把握が簡単ではなくなります。さらに、複数の事業部がある、事業所が全国にある、買収・統合で複数の企業が一つになった経緯がある場合などは特に難易度が上がります。
「現在やっていること」を知るだけなので、簡単に思えてしまうかもしれませんが、現状の業務・課題の把握をすることを、自社でやりきるのはそんなに簡単なことではありません。業務のヒアリング・理解・整理までできる人は活躍する人材であることが多く自身の業務で多忙すぎたり、ただヒアリングするだけでは実態を話してもらえなかったり、現場にアンケートをとるだけでは表層的な内容しか把握できない等、上手くいかないケースを多く聞きます。

そのため、「現状の業務と課題の把握」についても「何人かに聞いてみよう」というレベルではなく、リソースの確保とアクションプランの策定等、きちんとプロジェクト化して進めるのがよいでしょう。
(手前味噌ではありますが、弊社株式会社こころみでは、この「現状の業務と課題の可視化」を強みとするディープリスニング・コンサルティングを通じて、DX推進・業務変革の支援をしています。ぜひご相談ください。)
スタートアップ企業には比較的 Salesforceをはじめとした営業DXをうまく取り入れている企業が多くありますが、その一つの背景として、既存の複雑な営業プロセスやテクノロジー(システム)がなく、新たに作り上げるタイミングのため、現状の業務と課題の把握があまり必要とならずに、目指す姿に近づけやすいということが言えますね。
②目指す姿を描く
「目指す姿を描く」については前回の記事で、4つのポイントをご紹介しました。
今回は、その4つのポイントそれぞれで、やはり、3つの要素、テクノロジー、プロセス、人・組織を考えていきましょう。より具体的に言うと、以下の項目を考えるということです。
- テクノロジー – 目指すシステムを構想する
- Salesforceのようなツール/SaaSを選定する、だけでなく
- データ構造をどのようにするのか、や
- 基幹システム・CRM・マーケティング・顧客サービス・データ分析等、全体構成まで
- プロセス – 目指す業務プロセスを描く
- 情報の流れ、物の流れといった業務フロー
- 各種手続き、操作画面といったUI/UX
- 業務量、繁閑の波、工数のばらつき等のボリュームとトレンド
- 手戻り、修正・訂正といった品質
- 人・組織 – 目指す人・組織を描く
- カルチャー(心)
- スキル(技)
- 体制(体)

人・組織のカルチャーやスキルとか言うと「Salesforce入れようと思っただけなのに、話が大きくなってきたな」って感じますよね。しかし、冒頭でもふれたように、「DXや変革に取り組もうとすると、人の問題に直面する」のです。これが原因で、「Salesforce入れたけど、なんか上手くいかない」となりがちです。
「スムーズに導入して上手くいってるところもあるよ」と思われるかもしれません。もちろん、それも事実です。それはやはり、業務プロセスもまだシンプルで、人も順応しやすく、組織も変えやすいような若い組織、つまりは機動力のあるスタートアップ企業や中小企業などでは、プロセスや人・組織の部分があまり問題にならないことが多いからです。そのため、あまり意識せずに Salesforceを導入しても上手く進むことも珍しくありません。
そのようなケースを参考にして、事業年数・規模が長く大きい企業が、同じように「あまり意識せず」に Salesforceを導入すると、「なんか上手くいかない」状況に陥りやすいのもまた事実です。
テクノロジー、プロセス、人・組織の目指す姿が描けたら?
テクノロジー、プロセス、人・組織について目指す姿を描けたら、目指す姿と現状とのギャップを把握して、そのギャップを埋めるための変革を設計・計画していきます。(目指す姿を描く時の考え方については、前回の記事をご参照ください。)
そのときに一つ重要なのが、段階的に目標を設定することです。
Salesforce導入・営業DXの場合の段階的な目標設定のイメージがこちらです。

テクノロジーもプロセスも人・組織も、いきなり理想形に持っていくことは難しいため、段階的に変革を進めていきます。
テクノロジーは、一気に理想形を作れる?
テクノロジー(システム)は、以前は、完全に業務・システム要件を決めて、1年以上かけてシステム開発し導入するといった方法 “ウォーターフォール” が主流でした。その頃は、一気に理想系のシステムを目指して作っていましたが、出来上がるのに何年もかかるので、出来上がった頃には理想形でなくなってしまうという難点もありました。
SaaSが普及し「基本のシステムは最初からできていて」「導入後もカスタマイズが容易」なツールが手に入るようになった現在では「まず基本的なシステムをスピーディに構築・導入して使い始め」「次々と改善を回し、よりよいシステムにしていく」という方法 “アジャイル” が主流です。
ビジネス環境の変化の激しい近年においては、ビジネス・業務の進め方全体においても、機敏な変化が求められるため、アジャイルという考え方がとても有効になります。(アジャイルについての深掘りはここでは割愛します。)
人・組織の目指す姿も描くことが肝要
ここで強調したいのは、テクノロジーとプロセスを変化させていくときに、それを活用するための人・組織の変革もあわせて行うことが重要だということです。
人・組織の「カルチャー(心)」「スキル(技)」「体制(体)」がどうあれば、この変化に対応できるのか、この変化を最大限活かせるのかを考え、設計・計画を作り、実践していくのが肝要です。
そうなると、ITやDXを担う部門だけで推進するのは難しいことも多いでしょう。やはり、DXや変革に取り組もうとすると、人事や経営を巻き込まざるを得なくなります。
目指す姿に向けて改善するときに気を付けるべきことは?
テクノロジーもプロセスも人・組織も段階的に成長させる、ということは、目指す姿へ向かって、一気にではなく、数多くの改善を積み重ねていくことになります。
では、その改善はどのように回すのか。これもまた設計しておくべきですね。
テクノロジー、プロセス、人・組織それぞれ、改善のサイクルを意識して作りこみます。
その際、OODAループ(ウーダループと呼ばれる)をベースに考えるとよいでしょう。
OODAループとは、「Observe(観察)」「Orient(判断)」「Decide(決定)」「Act(実行)」からなる意思決定と行動のサイクルです。広く知られる「PDCA」とよく似たサイクルですが、変化の激しい状況下での実践における試行錯誤から改善を進める際に適していると言われます。(詳しくは、Salesforce社のこちらの記事「OODAとは?PDCAとの違いや活用方法、メリット・デメリットを解説」を参照ください。)
テクノロジー、プロセス、人・組織に当てはめた場合、以下のイメージです。

具体的には、状況を把握するデータやフィードバックの集め方、会議体やコミュニケーションの設計、等を行います。
テクノロジー(システム)やプロセスを導入するまでは、設計・開発に関わる企画・技術系のメンバーの工数がほとんどですが、導入後は、営業など業務部門が、営業活動などの実業務を回しながら、新しい変化への対応と改善のサイクルを回していくため、元から多忙でありがちな営業部門にとっては、非常に重たい負担となります。そのため、「導入は終わったのであとは運用側でよろしく」と「システムを作って終わり」にするのでは決してなく、新しいテクノロジーとプロセスの定着化から成果創出までを設計し、営業部門だけでなくこの改善サイクルを回す体制づくり(人・組織の「体制」の部分)もふくめて設計するのが重要になるのです。(定着から成果創出までの設計についてはまた別の記事で)
まとめ
今回は、「DXを考える時に考慮すべき3つ要素」について考えてみました。皆さまのこれまでのプロジェクトのご経験からは、どのように思われましたか?
「人・組織」の話になると「それは重たいよね… 」となりがちです。どこの会社でもおそらく同じではないでしょうか。きっとあなたの会社だけではありません。
あらためて、今週公開された日経クロステックの記事「DXをIT部門や変革推進者に丸投げ、そんな経営者は退場すべきだ」を参照すると、人事や経営をどう巻き込むかの提言がなされています。ご参考にぜひどうぞ。(最後に書かれている「強硬策」はなかなかに過激ですが、立ち向かう壁はそれくらい大きく厚いということですね。)
弊社では、ディープリスニングという傾聴の技術を通じて、企業の中でインタビューを重ね、現状の課題の把握から目指す姿を描き、現場から経営までを味方につけ、変革を力強く推進するご支援しております。まずは現状の懸念からお聞きしますので、こちらから、ぜひお気軽にご相談ください。
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